人気ブログランキング | 話題のタグを見る
捨てる神あれば・・・


トゥールのカテドラル(大聖堂)界隈の、石畳の小道で出会した、とある民家の敷地へのアクセス扉。
なんの変哲も無い、よくある扉でしかありませんが・・・
私の注目は、下方、扉へ導く数ステップの右寄りです。




遠目では分からないかな。




近道をしようと、普段通る機会の無い小道を辿って、カーブにさしかかった時、私の目に飛び込んで来たのが、このような図。
忽然と放置された、見事に錆びたタルト型ふたつ。

お引っ越しでの物品処分で、一切合切かきあつめた不要品を選り分けて、道に並べているブロカント(アンティークには類さない古物中心の古物商)が、二束三文で売っていそうな代物ですが、お家の前に放置してあるのは、ワケがあります。

こうした光景は、街のあちこちでよく見かけるもの。
衣類だったり、靴だったり、お鍋や家具、子供用のオモチャ等、そのままポンと置いてある、或いは袋に詰めて、それとも、「まだ使えますよ!」なんて張紙をしてあったり etc.

今や、イスラム教がかなり幅を利かせるようになりましたが(※1)、国の公式宗教の定めはなくとも(※2)、歴史的な経緯を見ても、今なお文化として仏社会に定着している一般的な物の考え方を見ても、まだまだカトリック色濃いフランス。
チャリティ精神が日本に比べて遥かに旺盛で、例えば、道端に座り込んで小銭を乞う人達へ、多かれ少なかれコインを分け与える人の姿などは、日本の比でないほど、よく見かけます。
ホームレス、失業、家賃が払えず賃貸アパートを追い出される、或いは保証人が見つからず住居の賃貸契約が結べない、等々、いずれをとっても、全体的に見ると「明日は我が身」という危機感を抱く人の数が、日本よりも遥かに多い ということも関係しているかとは思います。
外国から、物乞い組織が稼ぎに来る、なんていうのも、そうした環境ならではなのでしょう。 折しも昨日夕方、市内の目抜き通りで、プラスティックカップ片手に、胸元から取り出した携帯電話でメッセージ着信の有無を確認するホームレス(に化けていると思しき50代半ばくらいの外国人)を見かけたくらいですから。

そんな、人助け心溢れるこの国だけに、必ずしもカトリックなり某かの宗教を信仰しているか否かの別をさておいたとしても、「この程度で誰かの役に立つなら喜んで」という精神は、日々の生活のあちこちに垣間見ることができます。
タルト型と一体何の関係があるのかって?
雨風にさらされたようなこのタルト型も、「丁寧に錆びを落として磨けば、実用的なキッチン道具として使えます」として、「どうぞ持ち帰って活用して下さい」というものだから。

日本から来て、日本での常識というフィルタ越しにこの国の文化・習慣を眺めては、「まったく、フランス人って!」と、何かと憤慨す人が居るもので、往々にして、口を尖らせ鼻息荒くする日本人の意見も分からなくもないので、大抵はとてもとても責められやしません。
でも、結果的に「物品を大切にする」「見ず知らずの誰か分からぬ相手にも助けの手をさしのべる」といったエスプリが、未だおざなりにされずに残っている、そんな面は、「新しい物好き」で、工業初め様々な発展に結びつけてきた日本でも、もうちょっと見習ったら良いのに と思うところ。

状態がよほど良いものに限られますが、衣類を中心に、日常生活に活用頻度の多い物品については、全国的に広がる慈善団体やそれらに類似する組織が、ほぼ常時、個人からのオファーを受け付けています。
毎年冬にホームレスや極めて貧しい人達のために暖かい食事を、或いは年間を通して、生きるに必要最低限の食料品や衣料品を提供する「ハートのレストラン:Restaurant de coeur」と銘打って、20年前にコメディアン、コリューッシュCollucheが立ち上げたチャリティ組織や、先だって亡くなったアベ・ピエールAbbé Pierreが「あらゆる人に、せめて屋根(住宅)を!」との働きかけで、今や世界のあちこちに広がったエマユスEmaüsなどは、恐らくあらゆる仏国民の間に知られるもの。
その他にも、赤十字やカトリック教会、ロータリークラブの一部等々、大小様々なチャリティ組織が全国あちこちに存在します。

贈れるだけの懐の余裕がなくても、何かしらできることはあるもの。
わざわざチャリティ団体に連絡しなくても、殊に大きな街の中心地に住んでいる場合、毎晩のようにゴミ箱を一つずつ覗いては、使えるもの、食べられるものを探す人が居ます。
まだまだ使える衣類を処分するなら、ゴミ箱に入れるよりも、透明なビニール袋に入れて、ゴミ箱の脇や閉じたフタの上などの置いておけば、きっと通りかかった誰かが役立ててくれる筈。
滅多に人が通らない辺鄙な私道でなければね。

持ち帰る人も、物によっては遠慮がちにということもありますが、案外、臆すことなくヒョイと持って行くことが多々あります。
少し前に、家の並びの数軒先のお家がお引っ越し準備していた際、子供のオモチャを、家の前にまるでガレージセールのごとく並べいるのに遭遇し、30分足らずの買い物から戻ってみると、その前に人だかりして「これは僕が」「じゃこっちは私が」などと、通行人が古物市さながらに和気あいあいに吟味しながら取りっこしていたくらいですから。

衣類については、誰かが持ち帰ってくれるのを望んでお家の前に置いてあるのをよく見かけるのですが、タルト型というのが珍しくて、見慣れた光景も、普段よりもなお心温まる想いで眺めたのでした。


(※1)現在、仏国内の宗教信者数で、トップはカトリック、第2位はイスラム教。
(※2)ライック/ライスィテLaïque / laïcité等の表現が示す「政教分離」。
これは、国の政治や行政と宗教を区別し、互いに干渉しないという、フランスの、国としての方針。
信仰の自由は国が保証するが、いかなる宗教を信仰するか、あるいは信仰しないかは、いずれも、あくまでも国民各々の個人レベルの私的な問題としている。
これが目下、度々、色々と物議をかもしているのですが、細々言い出すと話が長くなるので、いずれ別な機会に触れることにします。


<本日の仏単語>
・タルト型 moule à tarte ムール・ア・タルトゥ
・カテドラル(大聖堂)Cahtédrale カテドゥラル
・引っ越し déménagement デメナージュモン
・ブロカント brocante ブロカントゥ/ブロキャントゥ(注:古い物溢れるこの国では、ちょっと古いだけですぐさま「アンティーク」とは呼びません。1世紀足らず程度に古いものは、どちらかというとブロカント、単なる古物)
・アンティーク antique オンティック(頭のAは、アとオの中間くらいの微妙な音)
・アンティーク品(古美術品)antiquité オンティキテ(頭のAの音については同上)
・慈善団体 organisation caritative オルガニザスィオン・カリタティヴ
・チャリティ charité シャリテ


<本日のMusique>
Arthur H(アルテュール・アシュ)のAlbum「Show Time」より、

Mエム (Mathieu Cheddidマテュー・シェディッド)とのDuo、
“Est-ce que tu aimes ?:エスク・テュ・エム?”。
「君、ウェスタンのアレやソレ好き?」と二人で問いを投げ合うあまり意味のない歌詞ながら、どうにも耳に残る歌。

Youtube.comで見つけたVIDEO:
“Est-ce que tu aimes”


by mmetomato | 2007-05-16 00:46 | トゥール Tours


<< Bye bye Chichi ... チクチク&イカイカ最盛期 >>